生殖補助医療(ART)において,稀に透明帯が欠損した卵子(Zona free卵子:ZF卵子)が観察される.ZF卵子は,受精・発生能を持つものの物理的に脆弱であり,その発生を未然に防ぐことが望ましい.そこで本研究では,ZF卵子発生のリスク因子を特定することを目的とし,採卵周期にZF卵子がみられた症例(ZF群)とみられなかった症例(対照群)の比較を行った.また、リスク因子が培養成績に及ぼす影響を検討した.ロジスティック回帰分析の結果,喫煙(オッズ比:2.46,95% confidence interval(Cl):1.03–5.88,P < 0.05)および多嚢胞性卵巣症候群:PCOS(オッズ比:2.34,95%Cl:1.14–4.81,P < 0.01)がZF卵子発生のリスク因子であること,また高齢因子の場合ZF卵子が発生しにくいことが判明した(オッズ比:0.37,95%Cl:0.15–0.88,P < 0.05).ZF卵子のICSI後生存率および胚盤胞到達率は正常卵子と比較して低かった.一方で,対照群を喫煙区およびPCOS区に分けて培養成績を比較した結果,各因子の影響はみられなかった.本研究の結果より,喫煙,PCOS,加齢によって透明帯の質的変化が起こり,ZF卵子の発生頻度に影響を及ぼすことが示唆された.今後,さらなる検討を行うことでZF卵子の発生を未然に防ぎ,ARTにおける治療成績向上に繋がると考えられる.