世界的な不妊患者の高齢化により,老化に伴う卵子・胚の質の低下が課題となっている.卵子・胚の質の低下は,主にDNA損傷の蓄積,ミトコンドリア機能障害による酸化ストレスの増加などによって誘発される.その結果,細胞増殖能の低下と染色体の不安定性が増大し,胚の発生能の低下や染色体異数性の増加が起きる.しかし,効果的な治療法は未だ確立されていない.最近,種々のストレスによって細胞老化が誘発され,細胞周期が不可逆的に停止した老化細胞が,炎症性サイトカインやケモカインなどを分泌し,自己および周囲の細胞で炎症反応,細胞周期の停止を誘発するSenescence-associated secretary phenotype(SASP)と呼ばれる現象を引き起こすことが報告されている.我々は最近,卵子・胚のSASPに伴って分泌されるSASP因子を同定し報告した.本稿では,細胞老化と老化に伴う卵子・胚の質の低下について概説し,特にSASP因子の卵子・胚の質への影響とSASP因子の抑制によるアンチエイジングについて紹介する.