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Vol.37 No.2

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特集2:PGT-A の是非
胎盤の進化や多様性に関与するレトロトランスポゾン
JMOR, 37(2) 95-106, 2020
1東海大学総合農学研究所分子繁殖科学 〒862-8652 熊本市 2東海大学医学部分子生命科学 〒259-1193 伊勢原市

胎盤の主要な構成細胞である栄養膜細胞(trophoblast)は,様々なlong terminal repeat(LTR)型レトロトランスポゾンに由来する内在性レトロウイルス(endogenous retroviruses: ERVs)を高発現することが知られている.しかし,胎盤形成に関与するERV由来遺伝子の進化的意義,特に胎盤構造の多様性に及ぼす意義についてはあまり理解されていない.本稿では,胎盤形成についてまず説明し,哺乳類における胎盤構造の多様な形態を紹介する.次に,哺乳類が胎盤を獲得した過程を,LTR型レトロトランスポゾンPeg10/Sirh1Peg11/Sirh2 Sirh7/Ldoc1も加えて説明し,続いてERVの膜タンパク質(envelope,以後ERV-envと略す)由来の遺伝子であるSyncytin-1-2-A-B, -Rum1,およびBERV-K1/Fematrin-1に着目して詳述する.ERV-envに由来する遺伝子の一部は栄養膜細胞に見られる細胞融合に関与し,合胞体性栄養膜細胞(syncytiotrophoblast cells)の形成や,さらに胎盤の形態学的多様化をもたらしたと考えられている.ERV-envに由来する遺伝子の宿主での機能獲得は,異なる哺乳動物種で独立して複数回起こっており,一部のERV-env遺伝子発現には同じ転写因子が関わっている.このことより我々は,新しく遺伝子座特異的に挿入・固定されたERV-env遺伝子の変異体がそれまで機能していた遺伝子に取って代わったのではないかと推測している.さらに,ERVは,インターフェロン(IFN)誘導遺伝子(ISGs)などの様々な遺伝子の転写調節因子としても機能する. 以前より提唱している「バトンパス(機能の譲渡)」仮説は,複数の連続したレトロトランスポゾンの挿入・固定が,栄養膜細胞の細胞融合活性を保証し,ISGsの発現の時間的および空間的な調節機能や胎盤構造の多様性に関与したことを示唆している.

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