本研究ではヒトのPiezo-ICSIにおける細胞膜の破膜方法の違いが,受精率と卵子変性率におよぼす影響について調べた.次の3種類の方法,①1回パルス法(透明帯貫通後にピペットを卵子直径の70%程度の位置まで押し進める.そして1回パルスをかけて細胞膜を穿破後,精子を注入する),②3回パルス法(透明帯貫通後にピペットを卵子直径の70%程度の位置まで押し進めて1回目のパルスをかけて細胞膜を穿破後,80%程度の位置まで押し進めて2回目のパルス,さらに90%程度の位置まで押し進めて3回目のパルスをかけて精子を注入する),③細胞膜伸展穿刺法(ピペットを卵子直径の90%程度の位置まで押し進めて細胞膜を十分に伸展させてから1回パルスをかけて細胞膜を穿破し精子を注入する)の比較を行った.また,Piezo-ICSIでの破膜はパルスをかけて行うが,ピペットを卵子細胞質に侵入させる際に細胞膜の伸展性が低く,パルスをかける前に膜が破れる(異常破膜)場合に変性率が上がることが報告されている.そこで,上記3法の異常破膜卵子の発生率も併せて比較した.1回パルス法・3回パルス法・細胞膜伸展穿刺法の正常受精率は74.7%,72.9%,77.2%であり有意差は認められなかった.また,異常破膜卵子の発生率は,14.5%,8.9%,20.7%であり,3法それぞれに有意差が認められた(P < 0.05).しかし,3法の卵子変性率は3.9%,2.1%,3.2%であり,有意差は認められなかった.次に,異常破膜卵子に対して1回パルス法は,破膜位置に精子を注入し,細胞膜伸展穿刺法は破膜位置にかかわらず90%の位置に注入した.その結果,それぞれの変性率は,23.8%,15.7%となり,細胞膜伸展穿刺法において低い傾向が認められた.3法の受精率には差はなかったが,卵子の変性率を低下させるには,細胞膜を十分に伸展させて,異常破膜が起こっても破膜位置より奥に精子を注入することが有効であり,細胞膜伸展穿刺法が優れた穿刺法あることが示唆された.