
顕微授精(Intracytoplasmic sperm injection: ICSI)は不妊治療に広く用いられ,特に精子の運動能や形態異常を伴う症例に有効である.従来型ICSIでは卵子への機械的侵襲が問題視されていたが,これを解決する技術としてPiezo-ICSIが開発された.Piezo素子による微小振動を利用し,卵細胞膜を瞬時に穿通することで,卵子の損傷を最小限に抑えられる.マウスやブタ,ウシなどの動物モデルでは,受精率や出生率の向上が報告され,特に遺伝子改変個体の作出にも有用とされる.さらに畜産分野においても繁殖効率向上が期待されている.近年,ヒトへの応用も進み,従来法に比べ高い受精率と良好な胚発育成績が得られ,特に高齢女性に有効性が認められている.本稿では,当院におけるPiezo-ICSIの具体的な手技やメリット/デメリット,トラブルシューティング,および臨床成績について概説する.