1990年代後半から進んだゲノム編集ツールの開発は,2012年のCRISPR-Cas9システムの登場によって一気に加速した.CRISPR-Cas9システムはその簡便性と効率の良さから,いまや個々の研究者が扱えるまでに普及している.それに伴い,ゲノム編集ツールの受精卵導入によるゲノム編集動物の作製も進んでいる.マウスやラットの小型実験動物では従来法よりもかなり短時間で遺伝子改変個体の作製ができるようになり,ブタやウシなどの産業動物をはじめとして,これまで遺伝子改変が難しかった動物にも適応されている.作出された個体は基礎生命科学研究だけでなく,医療や産業においても利用され,動物性ゲノム編集食品の流通も始まった.ヒトでの遺伝子治療の可能性を大いに秘め,受精卵ゲノム編集技術は今後ますます重要かつ身近になるだろう.本稿では,改めて動物における受精卵ゲノム編集について概説する.